
今回紹介するのは、林 典雄先生が書かれた
運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈「下肢編」について紹介します。
書籍名 | 運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈「下肢編」 |
著者名 | 林 典雄 |
ページ数 | 169p |
発刊日 | 2018.4.13 |
出版社 | 運動と医学の出版社 |
本書は、林典雄先生が上肢編に引き続き下肢編をまとめたものです。
ページ数が上肢編より32pも多く、より臨床で使えてわかりやすい内容となっています。
- 下肢の整形外科テストに苦戦している人
- 下肢の基本的なX線の見方やアライメントの評価が知りたい人
- 下肢全般の患者さんに対してどこから評価していいか迷っている人
その中で、特に参考になった3つを紹介します。
Singh分類について
Singh分類とは、大腿骨近位部の骨梁構造が、老化に伴って身体活動とともに減少していく。
そして、重要度の少ない骨梁から順番に消失していくことを利用した骨粗鬆症を評価する分類です。
骨梁とは?
骨梁とは、骨内部の特に海綿骨に存在する網目状の骨組織。
骨の強度を保ち、荷重を分散する役割があります。
骨梁の種類について
(大腿骨近位部の骨梁のレントゲン画像)
骨梁には、骨頭に作用する体重負荷に対応した合目的な構造になっており、主に5つの骨梁グループが存在します。
- PC:主圧縮骨梁群 principal compressive group
- PT:主引張骨梁群 principal tensile group
- SC:副圧縮骨梁群. secondary compressive group
- ST:副引張骨梁群. secondary tensile group
- T:大転子骨梁群. greater trochanter group
PC→頚部の内側から骨頭に向かって垂直に配列する骨梁
PT→大転子の上方から骨頭に向かって内側方向へと配列する骨梁。
これら2つの骨梁は「主(principal)」と呼ばれるくらい、重要なものです。
大腿骨骨頭に加わった体重は、骨頭を下方に変位させる力を生じる
↓
大腿骨頸部の内側には圧縮力が生じ、外側には引き離される力が生じる
↓
これら圧縮&引張に抵抗する海綿骨構造が骨梁であり、その中心となるものが、
PC(主圧縮骨梁群)とPT(主引張骨梁群)です。
さらに骨頭への負荷を増加させると、先ほどの圧縮力&引張力が増加し、
SC(副圧縮骨梁群)とST(副引張骨梁群)が対応してきます。
それ以外にも大腿骨頸部のレントゲンでは、W(ウォード三角)、Calcar Femorale(カルカ フェモラーレ)などがみられます
W(ウォード三角)
転子部から頸部へ移行する部分にある、骨梁構造が疎かな部分。
力学的に弱点となる部位であることを意味し、大腿骨頸部骨折との関連が指摘されている。
Calcar Femorale(カルカ フェモラーレ)
PC(主圧縮骨梁群)が皮質骨を通り後内側の小転子を介して内側皮質骨につながる部分で、体重を支える最も重要かつ強固な部位。
Knee-in toe-outと鵞足炎の関係
鵞足炎とは
鵞足炎とは、ランニングや各種スポーツ動作時に生じる、膝関節内側部痛の一つの病態。
脛骨粗面の内側部での圧痛が特徴的で、停止腱の付着部障害と考えられている。
上記による鵞足炎とKnee-in toe-outの関係として
もし仮に、片脚で踏ん張ってknee-in(膝が内側に入る)したとする
↓
足部は床に固定されているため、knee-inした瞬間に下腿には強力な外旋強制が加わる
↓
この姿勢を保つため(抵抗するため)に、内旋作用を持った筋肉が収縮し、ブレーキをかけることになる
↓
このブレーキ機構が破綻し、膝関節内側部の疼痛と関連してくる
Knee-in toe-out🟰下腿の外旋強制
そのため、
①反復される外旋ストレスに対する停止腱に生じた腱症(牽引ストレス)
②停止腱の間に介在する鵞足包の滑液包炎(摩擦ストレス)
などが疼痛の原因となります。
+α 鵞足炎に対するトリガー筋鑑別テスト
これまで、鵞足炎とKnee-in toe-outの関係について説明してきました。
そして、これらの牽引と摩擦ストレスが鵞足(薄筋、縫工筋、半腱様筋)のうち、どの停止腱が疼痛と強く関連しているのか分かれば、理学療法の方針が立てやすくなります。
薄筋→股関節中間位・外転位 + 膝関節他動伸展
縫工筋→股関節伸展・内転位 + 膝関節他動伸展
半腱様筋→股関節屈曲・内転位 + 膝関節他動伸展位
これらの肢位によって鵞足それぞれを鑑別することができます。
整形外科病院では、変形性膝関節症などでも膝関節内側の疼痛を訴える人が多く、とても実用的な臨床テクニックとなっていますので、ぜひ参考にしてください。
足部の機能的変形
足部の機能的変形とは、足部に荷重が負荷される際、アーチ構造が法則的に変化する総称のことです。
足部のアーチは、荷重により全体として低下し、免荷により復元します。
足部アーチの変化は、後足部、中足部、前足部が互いに一定の法則性を持って、
荷重を分散しています。
<荷重に伴う足部の機能的変形>
まず最初に、距骨に体重が負荷され、踵骨を回内方向へ傾斜させます
↓
踵骨の回内に伴い、遠位にある立方骨も回内しながら押し出される
↓
回内した立方骨は、リスフラン関節レベルの横アーチを外側方向へ低下させるとともに、
さらに遠位の第4・5中足骨を回内させる
↓
第4・5中足骨の回内は、中足骨横アーチの外側を持ち上げることになる
結果として、横アーチが低下していきます。
上記のように、距骨に加わった荷重は距骨の回内運動を通して、足部外側列の縦アーチと横アーチを低下させながら、荷重分散を行っています。
<内側列の話>
足部の内側列では、距骨に加わった荷重が、舟状骨に対して遠位下方の力を加える
(舟状骨は、遠位方向へと押し出されることになる)
↓
舟状骨の遠位には内側・外側・中間楔状骨が関節している
↓
中間及び外側楔状骨は、舟状骨からの力を受けると、第2・3中足骨を遠位へとそのまま押し出すため、足長が長くなりながら縦アーチが前方へ伸びていく
↓
内側楔状骨は、舟状骨から内側下方へと押されるため、回外しながら内方へ移動し、リスフラン関節レベルの横アーチは低下していく
↓
その後、母趾中足骨は内転・回外しながら内側方向に広がっていき、中足骨の横アーチが低下する
足部の動的バランスを知る上でとても重要な知識となります。手指、足趾は特に骨・靭帯の数が多く、互いが複雑に連携しているので、この書籍を参考にしながら、自分の臨床の評価と解釈をより深めていきましょう。
さいごに
今回は、運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈「下肢編」について紹介しました。
- Singh分類について
- Knee-in toe-outと鵞足炎の関係
- 足部の機能的変形
上肢編に引き続き、インパクトのあるイラストが印象的で、臨床でも役立つ内容がたくさんありました。
他にも、Hip-Spine syndrome、仙腸関節付近の疼痛について、grasping testなど紹介しきれなかった内容がたくさんありました。
このように、「知ってる」「知らない」だけで助けられる患者様がいます。
そして、この記事が「目の前の患者さんを救う」きっかけになれれば幸いです。
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