こんにちはオルカです!
このサイトでは、理学療法士の皆様におすすめな書籍を紹介しています。

本日紹介する書籍はこちら『脊柱理学療法マネジメント』
腰痛の治療法として疼痛除去テストを提唱した成田宗矢先生が編集を務める理学療法マネジメントシリーズの一つです。
目次
この書籍がおすすめな人
- 1〜3年目で慢性腰痛やむち打ちなどに苦戦している新人セラピスト
- 実習先で脊柱疾患を担当する学生
- 最近外来の整形外科クリニックを転職した人
本書の概要
本書は脊柱理学療法の標準化を目指し、病態を理解し、機能評価の結果から仮説を立て、検証(理学療法)するという脊柱理学療法の基本が学べるように構成いたしました。
脊柱理学療法マネジメント 編集の序
成田さんは、文章の初めに、このような願いを記されています。
整形外科病院やクリニックで脊柱疾患を多く携わるセラピストの介入方法や治療までの流れがイメージしずらい方に強くお勧めできる一冊です。
そして、この中で特に自分が参考になった点をいくつか紹介したいと思います。
脊柱の安定性機構 脊柱の安定性を担う3つのシステムについて
脊柱の安定性には、
- 骨、関節、靭帯による『他動サブシステム』
- 筋による 『自動サブシステム』
- 筋群の制御を担う『神経制御システム』
これら3つのシステムから構成されていると述べられています。
そして、これら3つのサブシステムが相互に関与して脊柱安定性が獲得されます。
逆に、脊柱の不安定性については
Panjabiは脊柱不安定性を「安定化システムにより椎間のneutral zone(わずかな負荷によって生理学的椎間運動が生じる領域)を生理学的範囲内に維持できないこと」と定義した
とPanjabiさんの定義を引用しています。
neutral zone:
上記の定義でも述べられている通り、わずかな負荷によって椎間運動が生じる領域。
筋収縮による自動サブシステムの貢献度が高いことが特徴。
elastic zone:
neutral zoneの対になる用語。脊柱分節運動における最終可動域周辺の領域で、他動サブシステムによる安定性寄与が大きくなるため、構造的な破綻が起こりやすい。
また、neutral zoneにおける体幹の構造的な特徴から2つの分類に分けられる。
ローカル筋:
起始もしくは停止が腰椎に直接付着する筋。体感深部に位置し、腰椎の分節的安定性を制御している。
ex,頚長筋、腹横筋、多裂筋。
グローバル筋:
脊椎に直接付着しない多分節間を横断する表在筋。脊柱運動時のトルクを発生し、運動方向をコントロールしている。
ex,腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋。
つまり、冒頭の3つのシステムから1、2のシステムの強化により、3の他動サブシステムを軽減させ、構造的破綻を阻止することが重要となります。
漠然と体幹のトレーニングを実施し疼痛を軽減させるのではなく、脊柱安定性システムを理解した上で治療を行うことにより、自分を理学療法を一段上のレベルに上がることができます。
交通事故による頚椎捻挫の発症メカニズムについて
本文には、頭頸部に外力が加わり頚椎に骨折や脱臼などの器質的な損傷が生じずに頸部痛が出現したものは、臨床的に頚椎捻挫と診断されると記載されています。
病態としては、椎間関節、椎間板、筋肉、神経根などの損傷によって疼痛が出現します。
その中でも、外力の加わり方によって損傷メカニズムは2種類に分類されます。
1、体幹部への衝撃によって頭部に慣性力が発生する障害
2、頭部に直接外力が作用する場合
1で発生する頚椎捻挫の多くは、交通事故です。スポーツ現場では、ラグビー選手のタックルがあげられます。
では、ここから交通事故による頸椎捻挫の発症メカニズムを自動工学とインパクトバイオメカニクスの観点から紹介しています。
それらの結果によると、
座位で後方から衝撃が加わる
↓
体幹が前方に押し出され、頭部慣性力によって頸椎は下位頚椎より伸展を開始
↓
徐々に上位椎間に伸展運動が行われる
↓
結果、衝撃を受けた直後には下位頚椎が伸展位、上位頸椎は屈曲位となる
生理学的な頚椎運動は、頭部から動き始め、上位頚椎から伸展が開始され、上位頚椎より伸展運動が発生し、下位頚椎に伝わっていきます。
つまり、交通事故により後方から衝撃を受けると生理学的な運動とは逆の運動が生じ、上位頚椎と下位頚椎の関節間がぶつかることが考られます。
また、単純な後方からの衝撃のみならず、側方からの衝撃によっても被衝撃側の椎間関節に負荷が生じます。
椎間関節には侵害受容器が豊富に存在することがさまざまな研究で明らかになっていて、これらの非生理的な運動が関節包などを損傷して、疼痛が生じています。
BS-POP 心理的・社会的因位の評価について
腰痛の増悪と遷延化には早期から心理的・社会的な要因が深く関与していることが言われています。
そして、そんな心理的・社会的要因が存在しているかどうかのスクリーニングで有用とされているものが「BS-POP(整形外科患者における精神医学的問題に対する簡易質問表)」です。
BS-POPが作られたのは、精神医学、心理学的な素養がない整形外科医や理学療法士が、精神医学的問題が存在しているか簡便にスクリーニングすることを目的として開発されました。
・治療者用項目
- 痛みのとぎれることはない
- 患部の示し方に特徴がある
- 患肢全体が痛む(痺れる)
- 検査や治療をすすめられたとき、不機嫌、易怒的、または理屈っぽくなる
- 知覚検査で刺激すると過剰に反応する
- 病状や手術について繰り返し質問する
- 治療スタッフに対して、人を見て態度を変える
- ちょっとした症状に、これさえなければとこだわる
患者用項目
- 泣きたくなったり、泣いたりすることはありますか
- いつもみじめで気持ちが浮かないですか
- いつも緊張して、イライラしていますか
- ちょっとしたことが癇にさわって腹が立ちますか
- 食欲はふつうですか
- 1日の中で、朝方が一番気分がいいですか
- 何となく疲れますか
- いつもと変わりなく仕事ができますか
- 睡眠に満足できますか
- 痛み以外の理由で寝つきが悪いですか
それぞれの質問に対して1〜3点で評価し、治療者用で11点以上、あるいは治療者用で10点以上、かつ患者用15点以上を異常値としています。
慢性腰痛の患者では詳細な病歴聴取が基本で、腰痛の経時的な変化を確認することが大事です。
- 腰痛における増悪、寛解因子
- 手術歴、治療歴
- 生育歴
- 学歴
- 職歴
- 生活歴
- 家族構成
- 趣味
- 現在の悩み
これらの聴取が基本的に必要であり、家庭内や職場での問題は特に重要だと述べられています。
慢性腰痛患者の病歴は、非常に長く訴えも多彩であることが多いです。そのため、時間をかけて問診を行うことにより、自分達と患者間で医師では打ち明けられなかった些細な問題を摘出し、疼痛改善を目指すことが大切なんだと気付かされました。
患者さん達にとって悩みを言語化することが自体が治療となる場合もあり、常に患者さんの苦悩に寄り添う姿勢が人を救うことがあると再認識できる内容です。
中心化、末梢化、DP 症状の反応による分析について
この章では、症状の反応に関して押さえておくべきことを紹介します。
症状の反応では、中心化(centralization)、末梢化(peripheralization)、DP(directional preference)という用語があります。
・中心化(centralization)とは
→脊柱に対してある特定の最終域までの力学的負荷をかけることで、末梢の症状が脊柱に移動し、症状の範囲が減少すること。
・末梢化(peripheralization)とは
→中心化の逆で、特定の力学的負荷によって症状が末梢に広がること。
※これらの現象において重要なのは、症状の強さではなく、部位の変化です。
・DP(directional preference)とは
→症状の改善を導く力学的負荷の方向のこと。
<力学的負荷を使った評価の注意点>
- 靭帯損傷や緩み
- 重症な慢性リウマチ
- 長期ステロイド投与
- 過度な骨密度低下
また、DPが存在するためには、その方向のROM制限が必要です。
論文には、DPや中心化が存在することは予後良好を示し、特に頸部痛に関しては機能改善と相関していることがわかっています。
そのため、頸部痛患者の大部分は理学療法士の介入により、急激に改善し、DPを探すことが評価において非常に重要であることがわかると記されています。
臨床現場では、解剖学や運動学、自分が磨いてきた技術や治療方法などを基に臨床推論が広げられていますが、このような実際の症状の減少を捉えつつ最終的な臨床判断が下せるようになることも大事なことだと思いました。
さいごに
この書籍は、脊柱疾患をこれから始めてみる方にとっても入門書に相応しい一冊です。
基本的な解剖から、臨床によく出現する疼痛部位の説明まで、臨床現場の悩みの回答を先回りしてまとめたような内容となっています。
今回紹介した内容以外にも、bio-psycho-socialモデル、腰椎手術に関する基本情報、妊婦の腰痛に対するアプローチ方法など紹介しきれていない有益な情報がたくさん載せられています。
ぜひ自分の本棚の一部分にしてみてはいかがでしょうか。
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