[書評・要約]運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈(上肢編)

今回は、林 典雄先生の著書、「運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈(上肢編)」について紹介していきます。

林 典雄先生は、リハビリ業界で運動器超音波分野の先駆者であり、機能解剖学的触診技術を基礎とした治療技術が有名な方です。

そんな林先生は、この著書についてこう述べられています。

大切なのは「どう治すかの前に、どこを治すか」をはっきりさせることが必要です。

運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈(上肢編) 発行に寄せてⅱ

どう治すかの前に、どこを治すのか。

対象となる組織がわからなければ、その後の治療も定まりません。

逆に言えば、その病態に対する機能解剖学が理解できれば、自然に治療法は決まってきます。

それらの裏付けを、インパクトのあるイラストや林先生の工夫している点など解説付きで構成されているのが今回の書籍となります。

この本がおすすめな人
  • 始めて運動器疾患を担当する学生
  • もう一度運動器について見直したいセラピスト
  • 運動器疾患についての入門書をお探しのセラピスト

こちらは運動器疾患の入門書としておすすめできます。

全体的に、基本的な解剖学を理解できていればそこまで難しい内容は記載されていないように感じました。

その中で、特に参考になった3つの内容を紹介していきます。

整形外科的テストYergason testの臨床応用

Yergason testは、上腕二頭筋が持っている回外作用を利用して上腕二頭筋を収縮させ、その張力が刺激となって肩関節の疼痛を誘発することです。

この書籍では、それに加えて肩関節の位置を3つに分けて評価しています。

肩関節を下垂位、屈曲位、過伸展位とした際に、上腕二頭筋長頭腱(以下LHB)の結節間溝部に及ぼす力学的作用が変化します。

特に肩関節過伸展位では、結節間溝が前方に回転し、LHBの走行は、結節間溝を頂点として大きく折れ曲がり鋭角化することがわかります。よって、肩関節下垂位と比較して格段に大きな圧迫力が生じることになります。

肩関節の肢位を少し変化させるだけで、結節間溝に加わる機械的刺激を強めることができるのです。

少しの工夫で疼痛を正確に判断できます。

整形テストの基本を十分理解したうえで、正確に評価できるようにレベルアップしていきましょう。

肘関節機能を神経障害から考える 筋皮神経障害の評価

筋皮神経とは、鎖骨下を通り鳥口腕筋の内側から外側へと通過し、上腕二頭筋と上腕筋を支配している。

そこで、神経障害の評価で特に重要なものが筋力低下です。

前腕回内しながらの肘関節屈曲→上腕筋

この肢位での運動で上腕筋固有の筋力が把握でき、左右差を確認しながら神経障害を確認できます。

また、回外筋は大きく二つ存在し、上腕二頭筋と回外筋があります。

肘関節45°屈曲位での回外→上腕二頭筋(筋皮神経)

肘関節完全屈曲位の回外→回外筋(橈骨神経)

肘関節を完全屈曲することで、上腕二頭筋を弛緩させることができるので回外筋単独の筋力を評価することができます。

そして、45°屈曲位にすると上腕二頭筋の左右が大きくなるため、筋皮神経障害の症例が確認できます。

これらのように筋肉の特徴を理解すると、神経障害の評価は難しいものではなくなります。

手関節障害 手関節運動のメカニズムについて

手関節の構成

まず、手関節は、橈骨、尺骨、7つの手根骨で構成されています。(手根骨で豆状骨も存在するが手関節運動には関わりない)

手関節は、橈骨手根関節、手根中央関節、手根間関節を含んだ総称です。

その中でも、特に手関節機能を理解するには、橈骨手根関節、手根中央関節の関係を理解することが大切です。

固定部分&可動部

手関節運動を考える際に、固定部分と可動部分に分けて呼ばれることがあります。

固定部分→遠位の手根骨4つ(大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鉤骨)、示指、中指の中手骨

可動部分→近位の手根骨3つ(舟状骨、月状骨、三角骨)、母指、環指、小指の中手骨

固定部分とは、関節面構造が楔状かつ靭帯支持が密なため、これら6つの骨は互いにほとんど動きません

可動部分とは、それぞれ近位に関節する骨に対し運動することができます。

手関節障害の治療では、可動部分を構成する骨運動の異常を評価することで、適切な病態評価が可能となります。

手関節運動を理解するKey bone「舟状骨」

手関節が掌背屈方向に大きな可動域を有しているのは、橈骨に対して月状骨が掌背屈できることで、有頭骨との関節面を機能的に拡大しているからです。

この月状骨の運動に影響を与えているのが、橈側で舟状骨、尺側で三角骨です。

特に密接な関係なのは、舟状骨と月状骨です。

手関節中間位では、橈骨の長軸に対して舟状骨は約45°掌側方向に傾斜しています。

この舟状骨の傾斜は、遠位にいる大菱形骨が掌側に位置するために生じる現象です。

この傾斜は、掌背屈運動によって大菱形骨の位置がどちらに移動するかで決定します。

舟状骨は骨間靱帯により月状骨と強固に結ばれているため、舟状骨の傾斜が変われば、その傾斜に連動して、月状骨の位置が調整されます。

Columnar theoryRing theory

Columnar theoryとは、 手関節の運動が7つの手根骨を3つの基本単位に分類してまとめることで調整しあっていると考える理論のことです。

最初は、Navarroが提唱した分類がありましたが、固定部分である大・小菱形骨と有頭骨、有鉤骨が区別されていたため、現実的ではないとされました。

その後、Taleisnikが報告した固定部分を一括りにした定義が主流となりました。

NavarroのColumnar theory

lateral column:大・小菱形骨と舟状骨

central column:有頭骨、有鉤骨、月状骨

medial column:三角骨

TaleisnikのColumnar theory

flexion-extension column:大・小菱形骨、有頭骨、有鉤骨、月状骨

mobile column:舟状骨

rotational column:三角骨

Ring theoryとは、Lichmanが月状骨の運動は舟状骨と三角骨により決められるとしたものです。

前提として、月状骨には腱の付着がありません。

よって、月状骨から運動することは不可能であることを意味しています。

そこでLichmanは、大菱形骨→舟状骨→月状骨の流れ(radial link)。

有鉤骨→三角骨→月状骨の流れ(ulnar link)として、

手関節を動かす筋は固定部分に作用するので、遠位列が最初に可動

radial &ulnar linkを介して舟状骨と三角骨がそれぞれ位置を変える

位置を変えた情報が、月状骨に伝達

月状骨運動が生じるというものです。

LichmanのRing theory

radial link:大菱形骨→舟状骨→月状骨

ulnar link:有鉤骨→三角骨→月状骨

月状骨は、周囲の骨との間に張る靭帯を介して動くことになります。そのため、靭帯損傷が発生すると月状骨への力の伝達が正常にいかず可動域制限が生じます。

さいごに

本日は、林 典雄先生の「運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈 上肢編」について紹介しました。

他にも、肩甲帯のマルポジション、レントゲンでみる腕頭関節の正常アライメント、動的腱固定効果を利用した腱癒着部位の評価など、明日からでも臨床に有力な知識がかわいいイラストともに紹介されています。

わかりやすいものから知りたい人、イラストが多いものをお探しの人はぜひ検討してみてください。

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